土曜日, 10月 27, 2007

槍ヶ岳登山 その7

あれから一ヶ月以上も経ったというのにいまだに左足の裏が痛い。両足親指の爪は真っ黒だ。正確には爪の裏が内出血している。靴擦れは回復した。しかしまあ、つくづく弱い体だ。というか鍛えてないんだなあ、と思う。もうちょっとしたら低山に紅葉狩りに行きたいが、この一ヶ月何もしていないので、かなりきつくなると思う。
さて、槍沢カールを俯瞰しながらビールを飲み干した吉祥丸は、前記の通り、この先の進むべき道程を思案していた。で、結局はもう一度穂先に登って息子や妻が登れるかどうかを確かめよう、ということになった。時間は2時。往復1時間と見て3時。いい時間でしょう。

登り終えて素泊まりの宿泊手続きをした。部屋の名前「駒鳥」と番号を書いた紙を渡される。「靴も持っていってください」と言われた。靴をちゃんと管理していないと、間違って履いていかれるケースがあるんだろう。人は少ないようでどうやら1畳分は確保できそうだ。が、炊事場の場所を確認して驚いた。槍ヶ岳山荘は広いので、自炊のための炊事場に行こうとすると、吉祥丸の今いる寝床から廊下を渡って階段を上り、また廊下を進んでさらに階段を登らなくてはならない。けっこう遠いのだ。山荘内でもアップダウンするのは嫌だった。
ところが、この炊事場のすぐ横にも同様にカイコ棚のような寝床があるのである。ここに寝られたら楽ではないか。さっそく、受付の兄ちゃんに交渉した。だめかなと思ったが、「あそこの布団は干していないので多少湿っているかもしれません。それでもよければ」という返事。一瞬、富士山でのじめじめ布団の恐怖がよみがえったが、逆に言えば、あれを経験しているんだから大丈夫だろうと思った。雨具もあるし、防寒着はフリースとダウン持ってきている。というわけで、「大丈夫です」と答え、移動させてもらった。新しい寝床は「双六」。上下で12人が寝られるだろうか。それが対面(確か「常念」だった)にもあるので計24人くらい寝られる。が、今は吉祥丸だけだ。新しい人も結局来なかった。独り占めである。恐る恐る布団を触ってみたが、富士山のときと比べれば全然マシであった。

隣の炊事場で湯を沸かしまずはカレーヌードルを食べた。うまい。ここには窓があって外が見える。どうやらカールに面しているらしい。階段を登った分だけ高い位置から常念が見えた。そのうち壁一面を覆っているような大きな木戸があることに気づき(初めは壁だと思った)、ガラガラと開けてみると、なんと目の前に穂先がで~んと見えるではないか。これは特等席である。ラーメンをすすりながら穂先に登っている人を眺めていた。


と、穂先が焼けてきた。夕日である。スリッパのまま外に出て、裏手にある見物台のような岩に向かう。そこには夕日見物の人たちが7~8人いた。と書いてきて、ちょっと時系列の間違いに気づいた。最初にこの見物台に来たときはまだ夕日が沈む前で、もうちょっとかかるなと踏んだ吉祥丸は、いったん戻ってラーメンを作ったのだった。だから上記のラーメンに関する記述は間違いである。まあ、誰も読まないから関係ないけど。
ラーメンを食べている途中に夕焼けが本格化し出して、ちょっと残したまま慌てて再度飛び出したのである。

いつの間にか下のほうには雲海が広がっていた。焼ける槍、本当に綿のような雲海、まぶしすぎる夕日。極上の風景を堪能しながら充実感に浸った。でも、やはり心の隅には「みんなが一緒だったらなあ」という思いがあるのだった。
サンセットを見届けると炊事場に戻って夕食を作った。そういえば夕日を見ているときに「○番から○番までの方は夕食ができました」というアナウンスがあった。食事つきだとこういうときに不便だ。せっかくの最高の場面をゆっくり堪能できないではないか。

吉祥丸の夕飯は白米にマーボー丼を乗せたもの。シンプルだったがうまかった。焼酎と一緒に流し込む。そのうち自炊の人たちが次々とやってきて、部屋が一杯になる。といっても夫婦2人と単独の人3人くらいだった。吉祥丸は寝床に帰って酒の続きだ。今度はバーボン。同時に酸素発生器を作動させる。

疲れていたのか眠たくなり、バーボンはあまり飲めずに眠る。
が…。すぐに眼が覚めた。頭痛と吐き気に襲われたのある。高山病である。懸命に酸素を吸った。傍から見たらこっけいな格好だったろう。酸素の出口は小さいのでそこに口をすぼめてちゅうちゅうというかすーすーしているのである。
でも、効果はあった。そのうち頭痛はしなくなった。でも吐き気が治らない。高山病だったと思うが、このときは飲みすぎだと考えていた。もう山では飲まない、なんて思った。トイレが遠いので吐きに行くのも面倒だし、3000Mの山小屋でゲーゲーしている図というのも情けなかったので我慢するのだが、けっこうきつい。何度も寝返りを打っては残り少なくなった酸素をひたすら吸っていた。
やがて吐き気もおさまり、すうっと眠りについたのであった。
こうして槍ヶ岳の頂上を制した吉祥丸の一日は終わったのである。